本研究の初年度にあたる平成22年度は、おもにロジウム触媒を用いる芳香族基質とアルキンあるいはアルケンとの酸化的カップリング反応について検討を行い、縮合ヘテロ芳香族化合物を始めとするπ共役分子合成反応開発およびそのような反応に適した触媒のスクリーニングを行った。その結果、反応系を適切に設定することで、様々な芳香族基質の炭素-水素結合が位置選択的に切断された後、不飽和化合物の挿入が起こり、種々π共役分子が効率良く合成できることが明らかとなった。さらに触媒のスクリーニング中に、従来のパラジウム、ロジウム、およびイリジウム錯体に加えて、ルテニウム錯体も酸化的カップリングに対して高い活性を示すことを見出した。特に、チオフェンカルボン酸とアルケンとの酸化的カップリングにおいて、パラジウムやロジウム触媒存在下では、脱炭酸を伴ってカップリングが進行するのに対し、ルテニウム触媒を用いると脱炭酸が抑えられ、生成物としてアルケニル基を有するチオフェンカルボン酸が選択的に得られる。生成物中にカルボキシル基が残るため、これを使ってさらなる誘導体化が可能となる。今後、これまで見出したロジウム、パラジウム、イリジウム、およびルテニウム触媒反応を用いて種々含硫黄縮合芳香族化合物の合成を行っていく予定である。その予備的検討として、ベンゾチオフェン、チオフェン、および2-フェニルベンゾチアゾール類のアルケニル化を行った。ここで得られた生成物は、適当な分子内脱水素を行うことで、縮合環化合物へと容易に転換できる。
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