ビナフチル誘導体の一方の光学異性体(S体)に強く結合するモノクローナル抗体を作製してきた。このモノクローナル抗体は本研究課題における重要な分子認識素子であり、さらに特異的な触媒機能を発現させる第二配位圏となる。S-またはR-ビナフチル誘導体を有するモノマー、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドを共重合し、抗原ゲル (Ag(S)-gelおよびAg(R)-gel) を合成した。S体のビナフチル誘導体を免疫して得られたモノクローナル抗体にビニル基を導入し、これをアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドと共重合することにより抗体ゲル (Ab-gel)を得た。Ag(S)-gelとAb-gelを湿潤環境下、37℃で8 時間接触静置した。これらのゲルはリン酸バッファー中で振とうしても離れず、強く接着していることがわかった。このようなゲルの接着は、同種のゲル同士やアクリルアミドゲルでは起こらなかった。Ab-gelをAg(S)-gelとAg(R)-gelの2種ゲルとそれぞれ接触させて同様の実験を行ったところ、Ab-gel は特異的にAg(S)-gelと接着した。均一溶液中、本抗体はAg(R)よりもAg(S)に対して320倍強く結合することが酵素標識抗体測定法により確認されており、このゲル接着はゲルに導入したモノクローナル抗体の特異的な光学異性体認識に起因していると考えられる。ゲルに抗原・抗体をそれぞれ固定することにより、抗体の優れたキラル認識を可視化することに成功した。
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