研究概要 |
本研究の目的は、有機半導体の物性化学の観点から、従来ほとんど取り上げられなかった構造や電荷分布が非対称的な分子に着目し、中でも電気的両性と極性が混成する特徴的な分子を選んで付加価値の高い有機半導体を創出し活用する基盤を築くことにある。そのため、ドナーとアクセプターの二つの部位を適度な電子非局在性が望める構造で架橋した"両性極性分子"と分子構造に応じてπ電子の広がりが変わりうる"両性イオン分子"を主に選び、固相の分子集合形態と電子構造との相関を把握しつつ各々の特徴を捉え、それらがさらに際立つような物質設計を進めて、電気的両性と極性の混成が招く光応答や誘電挙動等を有する有機半導体の開発に導く成果を得ようとしている。追加採択により後期から研究に着手した初年度は、まず、両性極性分子の試験分子として設計・合成しその特性を種々検討してきた{4-[4,5-ビス(メチルスルファニル)-1,3-ジチオール-2-イリデン]シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン}マロノニトリル(BMPCM)を踏まえ、架橋部をキノイド骨格から含硫黄交差共役系に替える試みを行い、BMDCMより低下した分子内電荷移動度を確認し、その制御にとって有用な情報を得た。一方、両性イオン分子については、集合構造の特徴やそれに基づく物性を捉えてきたピリジニウム1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-2H-インデン-2-イリド(PI)の窒素置換体の最も注目すべき一つを選び、暗所では自発的な分子配向のため膜厚に依存した表面電位を与える蒸着薄膜が、吸収光の照射により電位解消を起こす機構について精密な電気測定から解明し論文発表した。この結果は、有機半導体中の電荷担体の貯蔵や輸送に関する基本的な問題の解決に重要な意味をもつ。また、PIのピリジン環のパラ位に置換基を導入して分子内電荷分布の変調を試みる実験にも着手した。
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