研究概要 |
我々はこれまでの研究で,フルオラス溶媒に可溶な包接化合物としてフルオラスレゾルシンアレーンを開発し,これがフルオラス溶媒中で6量体分子カプセルを形成することを明らかにしたので,本研究では分子カプセルの内部空孔を不斉化し,その不斉空孔を利用してこれまでにない新しいタイプの光学分割法を開発することを目的としている。 本年度は,6量体分子カプセルにおいて,水素結合によりカプセル形成に関与している水1分子を置換するような位置にキラル置換基を共有結合により導入するため,適した置換基構造の探索を分子力場計算(Spartan'06)により行った。その結果,置換基としてビナフチル骨格が適当であることが明らかになったので,2-メチル-2'-ヨードエチル-1,1'-ビナチルを調製し,このキラル補助基が一つエーテル結合により導入されたレゾルシンアレーンを合成した。また,このキラル補助基が分子カプセル内部に取り込まれていることを1H NMRスペクトルにより確認することができた。さらに,このビナフチル基をキラル素子とする分子カプセルがゲスト分子(2,2'-ジメチル-1,1'-ビナフチル)をエナンチオ選択的に包接することが分かった。例えば,R体のキラル補助基を持ったレゾルシンアレーンを用いた場合,分子カプセルはS体のゲスト分子をエナンチオ選択的に包接し,反対に,R体のゲスト分子は包接されずに回収された。また,包接されたゲスト分子とされていないゲスト分子は,フルオラス溶媒の特徴を活用して簡単な分液操作のみで分割できることも確かめられた。すなわちこれらの結果は,レゾルシンアレーン分子カプセルを用いてフルオラス相中に不斉空孔を創出することができたことを示している。したがって,このカプセルには新規な光学分割剤となる可能性があることが確かめられた。しかし,キラル補助基を持ったレゾルシンアレーン1分子と置換基を持たないレゾルシンアレーン5分子から6量体分子カプセルが形成されていることを示す直接的な実験結果は得られていないので,次年度の課題となる。さらに,そのエナンチオ選択性をより向上させるための検討も必要である。
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