研究概要 |
我々はこれまでの研究で,フルオラス溶媒に可溶なフルオラスレゾルシンアレーン(FRA)を開発し,これがフルオラス溶媒中で6量体分子カプセルを形成することを明らかにしてきた。本研究ではカプセル内部空孔を不斉化し,その不斉を利用した新しいタイプの光学分割法などの開発を目的としている。平成22年度は,この6量体分子カプセルの内部空孔を不斉にするため,FRAにキラルなビナフチル基を共有結合により導入し,このキラル補助基が分子カプセル内部に取り込まれていることを1H NMRスペクトルにより確認した。また,このビナフチル基をキラル素子とする分子カプセルがゲスト分子(2,2'-ジメチル-1,1-ビナフチル)をエナンチオ選択的に包接することを実験的に示すことができた。例えば,R体のキラル補助基を持ったFRAを用いると,分子カプセルはS体のゲスト分子をエナンチオ選択的に包接することが分かった。そこで平成23年度は,包接されたゲスト分子とされていないゲスト分子を効率良く分離するために,フルオラス溶媒の特徴を活用した簡単な分液操作のみで分割できる方法を確立した。具体的には,ラセミ体のゲスト分子2当量とR体のキラル補助基を持ったFRA1当量,置換基を持たないFRA5当量を摩砕し,これをフルオラス溶媒FC-72に溶解してヘキサン-クロロホルム混合溶媒中に滴下した。ヘキサン-クロロホルム混合溶媒相からは包接されていなかったと推測されるR体のゲスト分子が最高77%eeで,一方,フルオラス相を抽出した酢酸エチルからは包接されていたと考えられるS体のゲスト分子が最高79%eeで95%が回収された。すなわち,目的とした新規光学分割法を開発することができた。しかし,平成23年度の主要な課題であった「6量体分子カプセルの内部空孔が不斉である」ことを直接示す実験結果は得られておらず,引き続き検討課題となる。さらに,キラル補助基を持ったFRA合成のスケールアップが達成できていないため,エナンチオ選択性向上のための条件検討および再現性の確認を十分に行うことができなかったので,これも検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成22年度は,申請時の研究計画以上に進展していた。平成23年度は光学分割のための方法や条件を検討するためにキラル補助基がエーテル結合により導入されたレゾルシンアレーンをスケールアップして合成する予定であった。しかし,この合成が実現できていないため十分な量の試料が得られておらず,エナンチオ選択性向上のための条件検討を十分に行うことができなかった。したがって,全体として現時点ではやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はキラル補助基が共有結合したフルオラスレゾルシンアレーンを用いずに,補助基自体も自己組織化により分子カプセルの内部空孔に包接され,キラル素子として機能することで光学分割が可能となる系を開発することも同時に検討する。具体的には,キラル素子としてアンモニウムイオンを用い,この6量体分子カプセルが内部空孔にカチオンを包接する特性を活用する計画である。このキラル素子の自己組織化を用いた方法が確立されれば,平成23年度に計画の遅れの原因となったグラムスケールでの合成の問題を克服することができると共に,簡単な操作で繰り返し光学分割が可能となり,この方法の有用性をより一層明確に示すことができる。
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