TiOは高融点、高硬度でかつ金属的伝導性を持つことが予想され、物性的に興味深い物質である。しかし、大気圧下では合成が難しく、特に単結晶は得られていないため、電子状態や物性の詳細については未知の状態にある。本研究は、TiOと格子の整合性がよく、かつTiOの結晶化のために必要な高温処理が可能なMo(100)基板上にエピタキシャル的に薄膜を積み上げることにより、TiOの単結晶薄膜の合成を目指したものである。 Moの表面は容易に酸化されるため、その上にエピタキシャル的に酸化物薄膜を作成するのは容易ではない。種々検討の結果、Mo(100)基板をTi薄膜で覆った後酸化処理を行うことにより、下地の酸化を抑えて結晶性の良いTi酸化物薄膜を合成しうることを見出した。得られた薄膜を加熱すると1100℃まではTi2O3であり、1100℃以上でTiOとなることを見出した。さらに、単結晶化の条件を探査した結果、1300℃で10秒加熱すると(2×2)、1300℃で20秒加熱すると(4×1)周期の表面が得られることを見出した。(2×2)表面について表面電子状態を角度分解光電子分光により計測した結果、この表面にはMo(100)上に(2×2)周期で酸素が配列した領域と、(1×1)周期性のTiO薄膜で覆われた領域が共存していることが分かった。また、酸化過程の比較のためAg(100)上のTi酸化物の成長過程についても研究を行った。
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