光エネルギーの有効利用は、環境やエネルギーと言った人類が今まさに直面している問題の解決に直接繋がる事柄です。本研究では、光照射励により生じる光キャリアの寿命を延ばすための試みとして、光励起状態を精密に制御した有機半導体の分子設計指針に関する知見を得ることを目的としています。今年度は、低分子有機ラジカルの部分的な混入によって伝導性を発現する複数の有機伝導体の光応答特性に関する基礎的な知見を得るべく検討しました。その結果、これらの伝導性物質では、いずれも1000nmを超える近赤外領域(NIR)に強い吸収帯を有することが明らかになりました。これらの近赤外線吸収は電荷移動錯体などで見られるフリーキャリアを由来とする電荷移動吸収帯と似た性質ものでありますが、完全に等価なものではなく、本系特有の水素結合のダイナミクスとフリーキャリアが結合した吸収帯と考えられます。有機伝導体において、水素結合中のプロトンダイナミクスが近赤外線領域の光の吸収を増大させる効果はこれまでにあまり知られておらず、長波長領域の光エネルギーの利用に関して新しい知見を与えるものと期待されます。これは、プロトンダイナミクスと励起状態が低い光エネルギーで協調することを示唆しており、その因果関係については、理論的な手法を用いてその電子状態を明確にする必要があります。そして、これらの有機伝導体に擬似的な太陽光を照射した場合には、10-50%程度の伝導性の向上が認められました。光伝導性の波長依存性などについて、今後詳細に検討することによって、近接励起状態を有する有機導体の光キャリア特性に関する知見が得られるものと考えられます。
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