研究概要 |
パイロクロア型酸化物は,一般式A_2B_2O_7で表され,AおよびBサイトイオンからなるA_4, B_4正四面体がその頂点を共有して連なった3次元ネットワークを形成し,スピンフラストレーション系となる.特に4d遷移金属元素であるルテニウムを含むパイロクロア型酸化物Pb_2Ru_O_<6.5>のPbサイトにEuおよびSmを置換したPb_<2-χ>Eu_χxRu_2O_<7-δ>, Pb_<2-χ>Sm_χRu_2O_<7-δ>化合物の磁気的,電気的性質が報告されているが,希土類元素の磁性の影響が無視できない.そこで本研究では,Pbサイトに非磁性の希土類元素であるLu,Yを置換した新しい置換型化合物Pb_<2-χ>Ln_χRu_2O_<7-δ>(Ln=Lu, Y)を合成し,磁気的,電気的性質を調べ,新たな物性の探索とその系統的理解を得ることを目的とした.Pb_<2-χ>Ln_χRu_2O_<7-δ>の粉末X線回折の結果,0.0≦χ≦2.0の組成で単一相が得られた.Ln置換量χが増加するに従って格子定数がVegard則に従って減少することが明らかになった.次に,Pb_<2-χ>Lu_χRu_2O_<7-δ>の磁化率測定の結果,χ=0の試料ではパウリ常磁性を示した.0。4≦χ≦2.0では,85KにおいてFCとZFCの分岐が見られた.これはスピンがランダムな方向で凍結するスピングラス状態によるものと考えられる.一方,Pb_<2-χ>Y_χRu_2O_<7-δ>では,0.2≦χ≦2.0で,80K以下においてスピングラス状態の振舞い見られた.また0.4≦χ≦2.0の磁化率をCurie-Weiss型関数でフィッティングすると,Weiss温度の絶対値が大きい負の値になった.したがって,Ru原子間の磁気的相互作用は反強磁性的であり,さらにフラストレーションの影響によりWeiss温度の絶対値が大きくなったと考えられる.今後,さらに電気抵抗率や比熱の温度依存性を測定し,この系における電子相関について明らかにしていきたい.
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