研究概要 |
(1)BEDT-TTF塩における分子の価数とC=C伸縮振動の振動数との関係 従来、BEDT-TTF塩の価数とC=C伸縮振動数との間には直線関係が成立すると考えられてきた。しかた、価数0.5の付近の振動数は直線から有意にずれている。また、温度によっても3-6cm^<-1>程度シフトする。このような状況を踏まえ、価数0.5付近の分子の価数を正確に見積もるための温度依存性を含めた経験式を提唱し、α型BEDT-TTF塩の金属相の各サイトの分子の価数を見積もり、第一原理計算と比較した。この経験式を高圧力下のα-(BEDT-TTF)_2I_3に適用し、ゼロギャップ状態における電荷分布を見積もることができた。その結果、ゼロギャップ状態においてはフェルミ準位付近を除いて、常圧のバンド構造が保持されていることが分かった。 (2)α-(BEDT-TTF)_2MHg(SCN)_4(M=NH_4,K,Rb,Tl)における電荷密度ゆらぎ 上の4つの同型の化合物の内、常圧で超伝導転移を示すのはM=NH_4のみである。これらの物質の赤外、ラマン活性なC=C伸縮振動を調べた結果、電荷秩序ゆらぎに特有なバイブロニックバンドをM=NH_4のラマンスペクトルにおいて観測した。一方、中心対称性の破れをM=K,Rb,Tlの赤外活性モードに見出した。前者は超伝導、後者は電荷密度波(CDW)に関係している点が重要である。 (3)β"-(BEDT-TTF)(TCNQ)における、uniform metal to charge-ordered metalへのクロスオーバー 上記物質におけるBEDT-TTFのC=C伸縮振動は100Kを境にして、高温側で2本に分裂し、低温側で、一本に融合する。低温相は電荷分布の均一なuniform metalと考えることができる。高温相は2本に分裂しているが、電気抵抗は金属的であり、構造的にも均一な構造に近い。このような状況を考慮して、理論的にその存在が指摘されていた、charge-order edmetalであると考えた。温度が高いので、金属である事を証明するのは難しいが、可能性は大きい。
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