光化学系IIにおける水分解→酸素発生を担う酸素発生複合体は、4個のMnイオンと1個のCa2+からなるMnCaクラスターが触媒中心となり、表在性タンパク質やClーなどにより構成される。Ca2+あるいはCl-を取り除くと酸素発生活性が失われるが、Ca2+の結合サイトにはSr2+が、Cl-結合サイトにはBr-がそれぞれ取りこまることが知られており、活性の度合いは低下するもののMnCaクラスターのS状態サイクルは機能する。イオン置換による酸素発生活性の低下は、熱発光など熱化学的な分析からS3状態の電子エネルギー準位の低下によるものと説明できるが(Ishidaら、2008)、さらにCa2+/Sr2+置換体では時間分解蛍光測定によりキノン間の電子移動(QA→QB)が遅くなっていること示唆されている(Kargulら、2007)。そこで、本年度では、好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatusから、Ca2+/Sr2+あるいはCl-/Br-置換された光化学系II標品を精製し、分光電気化学法によりQAの酸化還元電位を調べることにより、イオン置換が酸素発生活性および電子伝達特性に及ぼす影響を調べることとした。結果、Ca2+/Sr2+置換により+27 mVほどQAの酸化還元電位がシフトするのに対し、Cl-/Br-置換ではほとんど変わらないことが分かった。本結果と既報の熱発光の結果から、S2/S3の電位変化は5~7 mV程度でしかないことが推察され、酸素発生活性は、Mnクラスターそのものの酸化還元電位ではなく、電子伝達に関与する機能分子の電位に大きく影響を受けることが分かった。
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