研究概要 |
tRNAは僅か80塩基前後の分子内に10以上もの修飾塩基を持つことが特徴であるが,tRNA遺伝子をin vitroで転写して調製した全く修飾塩基を含まない"tRNA転写物"でも十分なアミノ酸受容能を持つものがある。申請者らはこれまでに無細胞系を用いたタンパク質合成において酵母チロシンtRNA由来のアンバーサプレッサーtRNA転写物を利用してきが,このようなtRNA転写物が天然のtRNAと同等の忠実度や効率で遺伝情報の翻訳を実行しているかについては検証の必要がある。本研究では主としてRNAの分子整形技術を利用して(1)酵母チロシンtRNAの修飾塩基がtRNA立体構造安定化に及ぼす寄与,(2)アンチコドン二文字目にあるプソイドウリジン(Ψ)残基のコドン認識における役割について検討している。 今年度は2種類のキメラtRNA,および天然の酵母tRNA_<Tyr>とtRNA_<Tyr>転写物,計4種類の修飾塩基含量の異なるtRNA_<Tyr>について種々のイオン環境・温度下にTm測定や酵素プローブ法による構造解析を行い,立体構造の安定性と修飾塩基構成との相関性について検討する予定であったが,RNAリガーゼ標品の不調による結合効率の低下のため,測定に必要な十分量のtRNAを確保できず測定が完了していない。また,アンチコドン2文字目のΨ_<35>をU_<35>に改変したtRNA_<Tyr>(GU_<35>A)を調製する過程で対照として作成した,アンチコドン1文字目のG_<34>をU_<34>に改変したtRNA_<Tyr>(U_<34>Ψ_<35>A)のコドン認識がCrickの提唱したwobble説に反するという,予想外の知見が得られたため,アンチコドン1文字目のG_<34>をU_<34>やC_<34>,Ψ_<34>に改変したtRNA_<Tyr>を作成した。 今後これらのコドン認識特性を検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アンチコドン2文字目のΨ_<35>をU_<35>に改変したtRNA^<Tyr>(GU_<35>A)を調製する過程で対照として作成した,アンチコドン1文字目のG_<34>をΨ_<34>に改変したtRNA^<Tyr>(Ψ_<34>Ψ_<35>A)のコドン認識がCrickの提唱したwobble説に反するような知見が得られたため,そのことの確認を優先した。また,分子整形技術に必要なRNAリガーゼ標品の活性低下により結合効率が悪くなり,活性測定に十分な量のキメラtRNAを調製することに困難が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
RNAリガーゼについては,市販品に頼らず自力で酵素標品を精製して用いる方向で検討している。また,当初の計画になかったアンチコドン1文字目を改変したtRNA^<Tyr>のコドン認識特性を調べることは,現在広く一般に信じられているCrickのwobble説の妥当性を検証することにつながり,より重要な課題であると考えられるのでこれを最優先に推進する。
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