研究概要 |
tRNAは僅か80塩基前後の分子内に10以上もの修飾塩基を持つことが特徴であるが, tRNA遺伝子をin vitroで転写して調製した全く修飾塩基を含まない“tRNA転写物”でも十分なアミノ酸受容能を持つものがある。本研究では主としてRNAの分子整形技術を利用して (1)酵母チロシンtRNAの修飾塩基がtRNA立体構造安定化に及ぼす寄与,(2)アンチコドン二文字目にあるプソイドウリジン (Ψ) 残基のコドン認識における役割について検討している。 今年度は作成した2種類のキメラtRNA (N5T3, T5N3), および天然の酵母tRNATyrとtRNATyr 転写物, 計4種類の修飾塩基含量の異なるtRNATyrについて種々のイオン環境・温度下にTm測定や酵素プローブ法による構造解析を行い, 立体構造の安定性と修飾塩基構成との相関について検討する予定であったが,tRNATyr の限定分解産物の収量に問題が生じ,測定に必要な tRNA量を確保することに困難が生じた。そこで急遽,当研究室で最近開発されたアンチコドンヌクレアーゼ VapCを利用して tRNAを5’-半分子と3’-半分子に分割する方法により同様の実験を行った。そのため tRNAは大腸菌のtRNALeuに変更した。調製した計4種類のtRNAの熱融解曲線を測定することで,tRNALeu転写物<T5N3<N5T3<天然型のtRNALeuの順で安定性を増すこと,したがって修飾ヌクレオチド,特に5’-半分子に含まれる修飾ヌクレオチドには tRNAの構造を安定化する効果があることが分かった。しかし,Mg2+非存在下では天然型の方が転写物よりも構造が不安定になっているという予想外の結果が得られ,おそらく修飾ヌクレオチドはtRNAの三次構造中の水素結合を邪魔することでtRNAの構造を不安定にさせているものと考えられる。
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