研究概要 |
本研究では、アレルギー伝達物質であるプロスタグランジン(PG)D_2の産生を担うヒト由来造血器型PGD合成酵素(H-PGDS)の活性中心に存在するグルタチオン(GSH)をチオラート化によって活性化させる分子機構について、中性子線解析により原子レベルで解明し、GSHを活性中心に持つGSTファミリーに共通の反応機構の解明を目指すことを目的としている。通常、中性子構造解析のためには1mm角を超える大型の高品質結晶が必要となるため、22年度は、まずH-PGDSを大量に精製し、大型結晶のための育成実験に取り組み、最大で0.3×0.4×1.1mm程度の大型結晶の育成には成功したものの、中性子線回折実験に耐えうるような1mm角以上の高品質で大型の結晶を得るには至らなかった。これまでに、X線構造解析の結晶として、大量精製の確立および、Native結晶のX線構造解析(Nat.Struct.Biol., 2003)、および、阻害剤複合体のX線構造解析(J.Biochem., 2004, J.Biol.Chem., 2006)に成功し、さらなる大型高品質結晶の育成実験に関しては、ソユーズを使った宇宙実験に際してゲルチューブ法による結晶化を試み、最大で0.5×0.4×1.7mmの結晶が得られ、Native結晶については、1.28A分解能、阻害剤複合体に関しては1.05A分解能でのX線結晶構造解析に成功した。しかし、X線構造解析のためのX線回折強度データーの収集の際、強い放射光を長時間照射されたことによる酸化が進行し、余分な酸素との結合によるスルフィド結合の形成が起こっていた。さらなる高品質で大型結晶の育成実験を目的として新しい結晶化条件の検索のためのスクリーニングも行ったが、PEG6000を使った元来の結晶化条件以外に良好な条件は検索できなかった。撹拌実験、および、ゲルの入ったチューブによるカウンターディヒュージョンによる大型結晶化育成実験ではなく、最近我々の研究グループで開発しているゲル中での大型育成実験などを行うなど、新たな結晶化方法および条件の検索を行う予定である。
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