本研究は生物由来の水溶性多糖を水に不溶なフィルム材料へと成型加工する手法を確立し、さらにそのフィルム表面にバイオミネラリゼーションの原理に倣った手法によりアパタイトを複合化することで、骨修復材料としての利用を目指した多糖複合フィルムの開発を行うものである。本年度は種々の多糖に適用可能なフィルム作製法の確立に重点を置いて検討を行った。その成果として、グリコサミノグリカン類など種々の酸性多糖と塩基性多糖であるキトサンとを水溶液中で混合することにより生成するポリイオンコンプレックスを凍結乾燥し、それぞれについて得られた固体を熱プレスすることで有害な架橋剤や糖鎖の化学修飾を用いることなく、マイクロメートル厚みの種々の多糖複合フィルムを得ることに成功した。その際熱プレス時における水の添加やプレス操作を複数回行うことが均質なフィルムを再現性良く得るために重要であることを見出した。用いる糖鎖の種類により成膜性が異なることがわかり、ポリイオンコンプレックス生成および熱プレス操作における至適条件をそれぞれ明らかにした。さらに、予備検討の段階では1cm四方の大きさのフィルムの作製を目標にしていたが、今年度はフィルムサイズを3cm四方にまで拡大することに成功した。これより水に対するフィルムの膨潤性や、フィルムの機械的強度など、フィルム材料としての物性評価を定量的に行うことが可能となった。それら評価の結果から、用いる多糖の種類が得られたフィルムの物性に影響を与えることを明らかにした。
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