研究課題/領域番号 |
22550155
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
橋詰 峰雄 東京理科大学, 工学部・第一部・工業化学科, 講師 (40333330)
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キーワード | 生体機能材料 / 薄膜材料 / 多糖 / アパタイト / 擬似体液 / 熱プレス / 医用材料 |
研究概要 |
本研究は生物由来の水溶性多糖を水に不溶なフィルム材料へと成型加工する手法を確立し、さらにそのフィルム表面にバイオミネラリゼーションの原理に倣った手法によりアパタイトを複合化することで、骨修復材料としての利用を目指した多糖複合フィルムの開発を行うものである。二年目となる本年度は、昨年度確立した手法を用い、グリコサミノグリカン類など種々の酸性多糖とキトサンとのポリイオンコンプレックスから架橋剤や糖鎖の化学修飾を用いることなく、マイクロメートル厚みの種々の多糖複合フィルムを作製し、続いてヒト血漿を模した擬似体液中に浸漬することで、それらフィルムの表面にアパタイトを複合化することに成功した。それらの成果をColloids and Surfaces B誌に発表した。後半では、フィルム作製法のさらなる改良に取り組んだ。昨年度までの手法では始めに形成させたポリイオンコンプレックスを凍結乾燥した後、熱プレス法による成膜に用いていたが、遠心分離条件の変更により、余分な水分が大部分除去された、含水ゲル状のポリイオンコンプレックスを得る事に成功した。その結果、それら含水ポリイオンコンプレックスをそのまま熱プレスすることで、従来の手法のものと大差ないフィルムを作製することに成功した。これはポリイオンコンプレックス作製からフィルムを得るまでの所要時間は30分程度であり、従来の凍結乾燥(通常一晩)を経る手法に比べて飛躍的な時間短縮を実現した。さらに新たな展開として、多糖ポリイオンコンプレックスのフィルム以外の構造材料化について検討を始めた。その結果、溶液中の多糖ポリイオンコンプレックスの一部を引き上げて巻き取ることで、直径数十マイクロメートル程度の多糖複合ファイバーが作製可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の幹となる、水溶性多糖を原料とした水不溶性フィルムの作製とその表面へのアパタイト析出までの一連の流れについて基本的な条件で具現化に成功し、またその成果を論文発表できたため。また、フィルムの基本的な物理化学的特性の評価法も確立してきており、これまでの研究を通じてさらに詳細に検討すべき点や、フィルム以外の構造材料化についても可能性が見出されてきている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度見出された新規作製法によって得られた多糖複合フィルムの膨潤性や引っ張り強度、分子量の効果などを、従来法によるフィルムの特性と比較する必要がある。本年度一定の成果を得た多糖複合フィルム表面へのアパタイトの複合化についても、多糖の種類や反応時間の影響の詳細は今後の検討課題である。このほか、新たに検討を始めた多糖ポリイオンコンプレックスからのファイバー作製については、より詳細に作製法の改善および特性評価を進めていく予定である。また、最終的な医療分野への応用を指向して、細胞との相互作用等についてもまずはin vitroでの評価系を確立し、フィルムの特性を明らかにしていきたい。
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