本研究は生物由来の水溶性多糖を水に不溶なフィルム材料へと成型加工する手法を確立し、さらにそのフィルム表面にバイオミネラリゼーションの原理を利用してアパタイトを複合化することで、骨修復材料として利用可能な多糖複合フィルムの開発を行うものである。研究の最終年度である本年度は、フィルム表面へのアパタイト複合化に関しては一定の成果を得たため、フィルムの物性評価、およびフィルムの新たな可能性を見出すための検討を中心に行った。 まず昨年度確立した、フィルム作製過程で多糖ポリイオンコンプレックスの凍結乾燥を経由しない手法によって得られたフィルムの物性について、従来までの凍結乾燥を用いる手法で得られたものとの比較を行った。その結果フィルムの膨潤性には差はなく、一方で機械的強度は凍結乾燥を経ないフィルムの方が若干低い値を示した。これは凍結乾燥処理の方が水中で形成させたポリイオンコンプレックスの緻密なネットワーク構造を良く保持したためと考えられた。 また、多糖複合フィルムの生体材料としての可能性を評価するため、フィルム上での細胞培養について検討した。その結果、フィルムはマウス線維芽細胞に対して毒性を示さなかった。細胞の増殖性に関しては、細胞はフィルム表面に接着するものの増殖は抑制されるという興味深い結果が得られ、フィルムの細胞機能制御能をもつ培養担体としての可能性が期待された。さらに多糖複合フィルムがカチオン性色素を担持および放出する性質をもつことがわかり、薬物徐放担体のしての可能性も新たに見出された。 このほか昨年度から検討を続けていた多糖ポリイオンコンプレックスの新たな構造材料化としてのファイバー作製に関しては、装置の改良によってファイバーを連続的に紡糸することが可能となり、またファイバーの均質性も向上した。 以上の成果は国内外の学会において発表し、また現在論文原稿を作成中である。
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