研究概要 |
鉄(IV)ポルフィリン錯体はシトクロームP450などのヘムタンパク質の関与する酸化反応における活性中間体との関連で、その物性や反応性に興味が持たれている。しかし、鉄(IV)ポルフィリン錯体の一般的合成法は依然として確立されていないため、酵素反応機構解明のためのモデル錯体を用いた研究の進展が阻害されている。本研究では鉄(III)ポルフィリンの1電子酸化体である鉄(III)ポルフィリンラジカルカチオンに強い配位子場を持つ配位子を添加することにより鉄(IV)ポルフィリンに変換する方法を模索した。具体的には(テトラメシチルポルフィリン)鉄(III)クロリド錯体を1電子酸化して得られる鉄(III)ポルフィリンラジカルカチオンのジクロロメタン溶液に、-70℃でフッ化物イオンを添加して鉄(IV)への変換を試みた。生成物の性質をMR,UV-Vis,およびMossbauerスペクトルで検討したところ、鉄(IV)錯体ではなくビスフルオロ-鉄(III)ポルフィリンラジカルカチオンであることが判明した。すなわち、フッ化物イオンの添加に伴う鉄(III)イオンからポルフィリン環への電子移動は起きないことが明らかになった。 そこで現在はポルフィリン環に電子求引性置換基を導入し環の電子親和力を高めることにより、鉄(III)からポルフィリン環への電子移動を促進し、鉄(IV)錯体へ変換することを試みている。具体的にはポルフィリン環のメソ位にヘプタフルオロプロピル基を持つ錯体やオルトニトロフェニル基を持つ錯体を合成し、その1電子酸化体にフッ化物イオンやイミダゾレートイオンなどの強い配位子場を持つ配位子を添加して鉄(IV)錯体を得る実験を試みる予定である。既に原料となる錯体の合成は完了しており、酸化反応を行う段階にまで至っている。
|