海洋の光合成初期過程では、多官能性カロテノイドであるペリジニンやフコキサンチンが主な補助集光性色素として働き、クロロフィルが吸収できない青緑色の波長の光を吸収し、クロロフィルおよびタンパクとから形成する超分子複合体において85% 以上の超効率でクロロフィルへエネルギー伝達する。本研究では、これらカロテノイドの様々な類縁体を効率よく合成し、両者の構造的特徴と機能の関係を明らかにし、超効率的エネルギー伝達機構の解明を目的とする。この目的のため24年度は以下の成果をあげた。1.ペリジニンのイリデンブテノリド官能基が示す特異な性質の解明と、超効率的エネルギー伝達機能を有する新奇な化合物の開発を目指し、ペリジニンにおいてイリデンブテノリドのみを有する新規類縁体として、C30類縁体の合成に成功した。今後、C32類縁体などを合成し、これらの性質を、酸素官能基を全く持たないβ-カロテンの相当する類縁体と分光学的に比較・検討する。2. 超効率的エネルギー伝達の鍵となる新規なエネルギー準位として注目されるSICT 励起エネルギー準位(intramolecular charge transfer state)の特異な性質を解明するため、アレンに共役したオレフィンの数が4のC29ペリジニン類縁体の新規なワンポット合成を実現した。この分子のSICT準位について、既に合成したフコキサンチンの相当する類縁体と、分光学的に比較検討する。3.フコキサンチンにおける分子内電化移動状態に対し、アレン結合がどのような効果を及ぼすかを検討するため、アレンをオレフィンに変換したC32類縁体の合成に成功した。また、この分子は酸で容易に異性化することを見いだした。今後、この類縁体の超高速時間分解吸収スペクトルを測定し、アレンの果たす効果を検討する。以上のように、本年度は十分に予定した成果を上げることが出来た。
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