酸化銅(Cu2O)を吸収層に用いた太陽電池は、吸収層の直列抵抗が大きいために短絡電流が小さいことが課題となっている。本研究では、大面積に安価に製膜が可能な電気化学成長法による酸化物半導体の導電性を、欠陥の導入もしくは抑制によって制御することを目的とした。理論計算から、Cu2Oの電気伝導を支配する欠陥は銅欠損もしくは格子間酸素である可能性が示されている。これらの欠陥はキャリア(ホール)の起源となる。すなわち、酸化銅としての結晶構造を維持しかつ化学量論組成から酸素過剰もしくは銅不足の状態にすることで、キャリアが増加しp型半導体としての電気電導を大きくすることが期待される。電気化学反応による酸化銅の生成過程を考えると、酸素原料として溶液中のOH-と溶存酸素の2つが考えられる。本研究課題では電解液中のそれぞれの濃度を変化させて電気化学的にCu2O薄膜を作製した。また、電気化学法では基板に導電性があることが必須であるためキャリア濃度をホール効果測定で求めることができないため、上記欠陥の濃度によって変化するとの報告がある格子定数を欠陥濃度変化の指標とした。その結果、銅イオン濃度一定のもとでOH-濃度を増加させても、また溶存酸素濃度を増加させても、得られたCu2Oの格子定数は小さくなった。これは酸素源濃度を増すことによって銅欠損等の欠陥が増加したことを示唆するものである。また、OH-濃度はおよそ9桁にわたる範囲で変化させることができ、それに対して格子定数は比較的緩やかに変化する。一方溶存酸素は高々1-2桁しか変化させ得ないが、その変化に対して格子定数は極めて急峻に変化する。今後はこの格子定数が実際に欠陥濃度の変化に起因するものであり、またキャリア密度の増大をもたらしていることを確認するため、光励起発光、DLTS、電気化学インピーダンス等の評価を進める。
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