本年度は、最終年度の研究であるために、昨年度までに開発した材料の成果を踏まえつつ、次の2つの項目を中心に研究の総仕上げを行った。 (1)新規有機トランジスタ材料の開発:有機トランジスタ材料は一般に低分子系材料と高分子系材料に分類され、さらにプロセスの分類で、塗布・印刷系材料、蒸着系材料、単結晶系材料に分類できる。材料開発で最も重要なことは基本骨格の創出であり、最も時間を要し難しいプロセスである。昨年度までに数種類の有望な基本骨格を見出しており、本年度は新たな試みとして、非対称性を持つ有機トランジスタ材料の開発を行った。分子に非対称性を導入することにより、溶解性の付与を実現することに成功した。本分子設計手法は新しい試みであり、プチンテッドエレクトロニクス材料の新たな物質群として期待される。 (2)デバイス化と評価:有機半導体の性能評価は複雑で、薄膜トランジスタを作製した場合、その膜を構成している有機分子の電子状態と共に、膜のモロフォロジーが重要なファクターとなってくる。昨年度までに、有機半導体分子の配向性の制御、有機半導体材料と絶縁層との界面制御など有機トランジスタデバイスの機能向上のためのノウハウを蓄積してきた。本年度は溶液プロセスでの高効率有機トランジスタの開発と溶液プロセスを用いての有機単結晶薄膜の作製を重点的に行った。クリセン誘導体で移動度が10cm2/Vsを超える高い値を得ることに成功した。 以上、新しいエレクトロニクス材料の開発としては、クリセン系、含ヘテロ縮環系化合物などを中心に10種類程度の新規材料を開発した。中でも、クリセン系化合物は溶解性の付与にも成功し、溶液プロセスで移動度が10cm2/Vsとアモルファスシリコンの値をはるかに凌駕する性能を有する結果を得ることに成功した。今後これらのシーズ化合物を元に更なる材料開発を推進していきたいと考えている。
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