本研究は光学的視点から有機EL照明に適合した高効率な白色有機ELの開発を目指すものである。最終年度は、前年度迄に開発した燐光有機EL素子の独自の光学解析技術、並びに半透過陰極、光学補償層、反射層を組合せた独自のマルチカソード構造の最適設計とその解析に取り組み、表面プラズモン損失の低減のための試作・評価および光電磁場モード解析に基づく素子構造の光学設計および有機EL照明パネルへの適用について検討した。得られた成果は以下のようである。 (1) 表面プラズモン損失の低減に向けた光学解析手法の開発と実証 半透過金属電極の両界面で生じる2種類の表面プラズモン共鳴の相互作用を光学補償層により制御することで、表面プラズモン損失を10%以下(従来比1/5)に低減できることを理論的に示した。解析手法としてナノからマクロサイズの光学現象を同時に扱える”マルチスケール手法”を導入し、キャビティ効果、プラズモニック効果を確認した。表面プラズモン損失の回避により生じた薄膜導波光を効果的に外部に取り出すことで、外部量子効率を70%に高められることを理論と実験により示した。 (2) マルチカソード構造を利用した高効率燐光有機EL素子の開発 前年度に開発した高効率燐光有機EL素子にマルチカソード構造を適用し、同時に薄膜導波光を外部に取り出すための高屈折率バッファ層とマイクロレンズアレイを併用することで、従来比1.7倍の効率改善が可能なことを試作・実証した。また研究の進展に伴い、同法がプラスチック基板がもつ光学異方性を利用した場合に、更に効率の改善が期待できることを見出し、フレキシブル有機ELへの展開が新規テーマ(科研費)として採択された。以上、計画当初に設定した光取り出し効率60%の実証に成功し、今後の継続的な進展も期待できる。今後は企業との連携を通して同技術を白色パネルに適応する予定である。
|