本研究は、重金属耐性菌等が有する重金属輸送膜タンパク質について、そのセンサ素子としての利用可能性を明らかにすることを目的としている。この目的のため、安定な人工脂質膜の開発と重金属輸送膜タンパク質との複合化・再構成技術、ならびに膜タンパク質の脂質膜内での配向評価・制御技術の検討を進めている。平成22年度は、膜透過性が低く機械的に安定な古細菌脂質を模倣した人工リン脂質とこれを基板上に固定化するための安定なアンカー脂質を調製し、その膜形成性を調べた。得られた人工リン脂質は、水中で容易にリポソーム膜を生成し、また広い温度範囲で配向秩序性は比較的高いながら、膜タンパク質の機能発現に有利な膜流動性を示すことも確認した。またアンカー脂質は、親水基鎖長に応じて膜透過性・安定性が変化することを、サイクリックボルタンメトリや交流インピーダンス測定により確認し、Au電極表面に安定に固定化可能であることがわかった。一方、重金属輸送膜タンパク質については、遺伝子工学的手法により、C末にHis-tagを導入したものを大量に発現させ得た。さらに、膜タンパク質の脂質膜内での配向を制御するため、脂質と会合して開放構造の脂質膜複合体(脂質膜ディスク)を形成し得るアポリポタンパク質の応用を検討した。安定脂質膜を形成する人工リン脂質との複合化を試み、天然リン脂質が約10nm径の膜ディスクを形成する条件で、安定なフッ素含有リン脂質もほぼ同様のサイズと変性剤耐性を有する安定な膜ディスクを形成した。これらの会合体生成は、膜タンパク質の配向制御において有用であると期待できる。
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