研究課題/領域番号 |
22550170
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
馬場 照彦 独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, 主任研究員 (40357794)
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キーワード | 生物物理 / 超薄膜 / 脂質 / 蛋白質 / バイオセンサ |
研究概要 |
本研究は、重金属耐性菌等が有する重金属輸送膜タンパク質について、そのセンサ素子としての利用可能性を明らかにすることを目的としている。この目的のため、安定な人工脂質膜の開発と重金属輸送膜タンパク質との複合化・再構成技術、ならびに膜タンパク質の脂質膜内での配向評価・制御技術の検討を進めている。 平成23年度は、膜透過性が低く機械的に安定な古細菌脂質を模倣した新たな分枝鎖型リン脂質や、安定なフッ素化リン脂質を重金属輸送膜タンパク質の再構成基材とするため、引き続きこれら脂質膜の性質を調べた。膜内蛍光プローブへの無機イオンによる消光作用を利用することで、膜表面への非特異的なイオンの浸透性を比較した。重金属イオン(銅(II)等)が作用する場合、市販の分枝鎖型リン脂質膜では、比較対照とした直鎖型リン脂質膜に比べ、膜表面への重金属イオンの浸透性が高かった。いっぽう、前年度までに作製した新たな分枝鎖型リン脂質膜ではイオンの膜内への浸透性が減じられた。また蛍光寿命測定から、新たな分枝鎖型リン脂質膜内の極性や水和性は低下することが推測され、このような膜系ではイオンの非特異的透過が減じられ、膜タンパク質を介在する特異的イオン透過を観察するのに適することが期待される。さらに、膜タンパク質の脂質膜内での配向を制御するため、脂質と会合して開放構造の脂質膜複合体(脂質膜ディスク)を形成し得るアポリポタンパク質の応用を引き続き検討した。安定脂質膜を形成する人工リン脂質との複合化を試み、新たに作製した分枝鎖型リン脂質は、安定なフッ素化リン脂質と同様、脂質とアポリポタンパク質との比率に依存してサイズの変化する脂質膜ディスクを形成した。また、新たに作製した分枝鎖型リン脂質は、繁用される直鎖型リン脂質よりも変性剤耐性の高い安定な膜ディスクを形成した。これらの会合体生成は、膜タンパク質の配向制御において有用であると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度平成22年度末の震災の影響が大きかったと述べざるを得ない。具体的には、所属機関内の研究スペースにおけるインフラ(電力、水等)の供給制限、特に、実験に多量に使用する精製・蒸留水が個別供給装置の故障によって長期間停止したこと、課題の中心である膜タンパク質など各種タンパク質試料や生化学試薬を保管する超低温槽が、電力供給停止によって温度上昇し、試料・試薬の一部変質があったことは、研究展開における障害の一因となった。また、所属機関の復旧・復興の一環として、研究スペースの移動、縮小化作業に断続的かつ長期の日数を割かざるを得なかったことも、研究展開の上での阻害要因の一つになった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究展開における障害を可能な限り減ずるべく、前年度後半には、連携研究者の研究スペースにおいて実施可能な研究を、研究代表者の短期滞在による形で実施した。今年度も引き続き、連携研究者の研究スペースにおける研究を短期間実施することで、研究を推進する予定である。このため、既に開発している安定な人工脂質膜と、新たに調製し直した膜タンパク質を用いる再構成系の作製、それらを基板上に固定化する再構成膜ディスクの作製、さらに固定化状態を検討することに項目を絞って実施し、膜タンパク質の輸送機構を解明しようとする検討は減ずる方向を予定している。
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