本研究は、重金属耐性菌等が有する重金属輸送膜タンパク質について、そのセンサ素子としての利用可能性を明らかにすることを目的としている。この目的のため、安定な人工脂質膜の開発と重金属輸送膜タンパク質との複合化・再構成技術、ならびに膜タンパク質の脂質膜内での配向評価・制御技術の検討を進めている。 平成24年度では、膜透過性が低く機械的に安定な分枝鎖エーテル型リン脂質およびフッ素化リン脂質を膜タンパク質の再構成膜基材とするため、これらの膜と重金属膜タンパク質の輸送目標となる重金属(Hg(II)等)イオンとの相互作用(膜結合性・膜浸透性)を引き続き検証した。膜表面に重金属感受性蛍光プローブを導入した膜系に対してHg(II)イオンを作用させると、繁用される直鎖エステル型および分枝鎖エステル型リン脂質では、いずれも同様な膜結合性・膜浸透性を示した。他方、前年度までに作製した新たな分枝鎖エーテル型リン脂質膜では、Hg(II)イオンの膜結合性・膜浸透性が減じられた。このことから、分枝鎖エーテル型リン脂質膜は重金属輸送膜タンパク質の介在する重金属イオン透過性を観察するのに、より適すると期待される。さらに膜タンパク質の脂質膜内での配向を制御するため、開放膜構造である脂質膜ディスクの応用を引き続き検討し、膜ディスク内の微視的構造を蛍光プローブ法によって評価するとともに、膜タンパク質モデルの複合化を予備的に検討した。
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