銀塩写真感光材料上の露光部で起こる、[Au(I)(SCN)_2]-錯体からの金ナノ粒子形成反応を調べた。写真感光現象の解析の手法を適用して詳細に解析し、アスコルビン酸の添加の有無による違いを比較した。アスコルビン酸添加により金ナノ粒子生成速度の大きな増大とともに、光感度の上昇、金ナノ粒子によるプラズモン吸収のブロード化、電子顕微鏡観察による金ナノ粒子のサイズ分布の広がりが見られた。アスコルビン酸無しでは[Au(I)(SCN)_2]-錯体の不均化反応、アスコルビン酸有りでは[Au(I)(SCN)_2]-錯体のアスコルビン酸による還元により、金ナノ粒子形成が進行すると考えられた。これらの反応では感光材料中のハロゲン化銀粒子上に形成された光分解銀核が触媒として働くという特徴を持つ。光感度の違いから、光分解銀核が触媒活性を示す臨界サイズが異なり、アスコルビン酸の還元ではより小さなサイズの光分解銀核でも活性を持つと考えられた(Bulletin of the Chemical Society of Japan、投稿中)。 この金ナノ粒子形成システムは、光で触媒が形成されるというこれまでにない特性を持つ。光により触媒の分布や濃度などの特性を制御できるので、マイクロリアクターなどへの応用も考えられる。 一方、このシステムでは露光により像が形成されるので、これまでも金膜写真などの画像形成プロセスに応用してきた。ここでの成果は、これまで応用展開として進めてきた、金膜写真・金微粒子写真作製プロセスでの、特にこれまで問題であった遅い現像速度の向上による迅速化に貢献しており、作製プロセスの改良へ結びつけることができた(日本写真学会誌、73、319(2010))。さらにこの結果を、マイクロ写真記録に適用した文書の超長期保存システムの開発(2010 International Joint Seminar on Conservation of Archives、韓国)や、転写法による簡便な金膜写真作製法(日本写真学会誌、74、12(2011))などへと展開させることができた。また、原子核乾板での放射線飛跡の精細検出、ホログラム記録などへの重要な示唆を与えた。
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