研究課題/領域番号 |
22550185
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山脇 浩 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (10358294)
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キーワード | 錯体水素化物 / 高圧力 / リチウムイオン伝導 / ラマン分光 / 粉末X線回折 / 温度・圧力相図 / 赤外分光 / DFT計算 |
研究概要 |
水素貯蔵材料として注目されると共に、高いLiイオン伝導性を示すLiBH_4をはじめとするn系錯体水素化物に関して、温度・圧力により出現する様々な結晶相に対して各相のイオン伝導度を調べ、振動分光によるイオンの振動状態、粉末X線回折による構造変化などを明らかにし、イオン伝導度と構造との相関関係を解明することを目的としている。Li系錯体水素化物の中でもLiBH_4-LiNH_2複合体が高いリチウムイオン伝導を示すことが知られており、今年度はまずはベースとなる物質であるLiNH_2の温度・圧力相図を調べた。赤外分光および粉末x線回折測定により、LiNH_2の従来報告されていた常圧α相と高圧β相の中間領域に新たな相が存在することが明らかになると共に、粉末X線回折データとリートベルト解析、DFT計算により高圧β相の構造を明らかにした。β相ではどのLiイオンに対しても配位数が4になり高密度にパッキングされている一方、転移時に一旦N-H結合長が伸びることも示された。ラマン分光により10GPa以下の圧力域ではα相が500K以上の高温まで存在していることも明らかとなった。次に、高リチウムイオン伝導体であるLiBH_4-LiNH_2複合体の1:1錯体と1:3錯体それぞれについての圧力-温度相図を調べた。1:1錯体は常圧でcubic相であるが室温17GPa以上でラマンスペクトルやX線回折パターンに変化が見られた。常圧近くまで減圧すると相分離して、一部は元のcubic相であった。このことから、転移もしくは化学反応が起きた可能性がある。一方、1:3錯体については3GPa,400K以上の温度・圧力域で新たな高温高圧相が出現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LiBH_4,LiNH_2に関して温度・圧力で出現する各結晶相の構造や相境界を求め、LiBH_4-LiNH_2複合体についても新規な高温高圧相を発見するなど、相図および結晶構造を明らかにしつつある。既に構造が明らかになった相については、DFT計算による構造最適化を行い、結合状態について知見を得るとともに、MD計算によるイオン種の動きの可視化を行っている。LIBH_4の高温高圧相が期待と異なりイオン伝導度があまり高くない結果であったが、新規に見出したLiBH_4-LiMH_2複合体の高温高圧相に対しても今後イオン伝導度変化の測定を行うべく準備しつつあり、おおむね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
課題最終年度にあたり、高イオン伝導で知られるLiBH_4-LiNH_2複合体を中心に研究を進めていく。粉末X線回折やラマン分光によるLiBH_4-LiNH_2複合体の高温高圧相図の確認、交流インピーダンス法による複合体の高温高圧域のイオン伝導度変化の測定とMD計算による結晶構造中におけるイオン種の動きの解明を進め、構造とイオン伝導の関連を明らかにしていく。Li系錯体水素化物においては、大気中の水分との反応による劣化の影響が大きく、グローブボックス中の実験においてすら試料の劣化が見られるが、取扱い器具の乾燥処理などで対処可能と思われる一方、水分との反応により水和物形成の可能性が認められ、劣化の初期過程の解明の一環として、粉末X線回折やラマン分光、赤外分光による反応生成物の解明にも取り組む予定である。
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