研究課題/領域番号 |
22550202
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
越智 光一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (30067748)
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研究分担者 |
原田 美由紀 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50411492)
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キーワード | ネットワークポリマー / 自由体積 / 充填密度 / 屈折率 / 誘電率 / 強靭性 / 粘弾性特性 |
研究概要 |
本研究の目的は、エポキシ樹脂硬化物の網目鎖内部あるいは網目鎖間に導入した空間が、硬化物の誘電特性および光学特性におよぼす影響を明らかにすることである。本報告は、研究の2年目の成果報告にあたる。昨年度の研究で網目鎖内部あるいは網目鎖内部の空間の見積もりを行ったラダー状、ケージ状およびダブルデッカー状シルセスキオキサン(SQ)骨格エポキシ樹脂について、その酸無水物硬化系のガラス転移温度、弾性率、強靱性、および誘電率などの物性評価を行い、網目構造中に導入した空間の大きさとの関係について検討した。 まず、汎用のビスフェノールA型エポキシ樹脂に上記3種のSQ骨格エポキシ樹脂を配合した硬化物の動的粘弾性特性を評価した。その結果、SQ骨格樹脂の配合量の増加に伴ってガラス転移温度Tgの低下することが示された。これは、網目鎖間への空間の導入にともなってエポキシ基の開環によって生じたヒドロキシエーテル(-CH2-CH(OH)-CH2-O-)部分の分子運動が容易となったことによるものとして説明される。ガラス状領域の弾性率は、硬化物の網目鎖の充填密度と良い相間を示し、充填密度の小さな系ほど低い弾性率を示した。これも、網目鎖間の空間の大きな系ほど弾性率の低下することを示しているものと考えられる。 次いで、これらの硬化物の誘電特性を測定した。ケージ状およびダブルデッカー状SQ骨格エポキシ樹脂は、汎用エポキシ樹脂の誘電率(ε=3.02)に対してそれぞれε=2.65および2.69とかなり小さな値を示した。これは、分極の小さなSiO2構造の導入と同時に、分子鎖間に大きな空間を導入したことによって硬化物の誘電率が低下したものと考えられる。一方、ラダー状SQ骨格エポキシ樹脂はこれらの硬化物に比べて大きな誘電率を示した。この系には極性の大きな合成触媒が残存しているためと考えられ、誘電特性の比較は困難と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3種のシルセスキオキサン骨格エポキシ樹脂の3D構造と網目鎖内部あるいは網目鎖間に導入した空間との関係、この導入した空間の大きさと屈折率、誘電率、弾性率、およびガラス転移温度との関連性の検討は計画通りに終了した。 しかし、ここで行った研究手法をより多くのネットワークポリマー系に適用して、結論の普遍性を検討することがまだできていない。これは、他のネットワークポリマー系の選定に時間を必要としたためである。昨年度後半にエポキシ樹脂と硬化剤の3D構造が明確で、その構造変化により硬化物の自由体積を制御可能な硬化系の選択を終了できた。本年度(最終年度)の研究により、この一連の硬化系にこの研究で開発した研究手法を適用することにより、網目構造中に導入した空間と上記の物性の関係を検討し、当初の研究計画を予定通りに達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究は、シルセスキオキサンを骨格とする特殊なエポキシ樹脂について実施してきた。本年度は3D構造の異なる芳香族、脂肪族あるいは脂環式エポキシ樹脂を、多官能カルボン酸あるいはチオール基化合物を硬化剤として3D構造の異なる(即ち、網目構造に導入した空間量の異なる)硬化系を調製する。この一連の硬化系について自由体積を一次近似的に見積もると同時に、屈折率やアッベ数、誘電率と誘電損失、動的粘弾性特性を評価しする。これらの物理特性と自由体積の関係を検討することによって、これまでの研究によって得られたシルセスキオキサン骨格エポキシ樹脂系についての結論が、普遍性を持ってより一般的なエポキシ樹脂ネットワークにも成立するか否かを検証する。上記の検討結果に基づいて、網目構造中への空間の導入による光学特性、誘電特性、熱特性の制御を目的とした新しネットワーク構造の分子設計についての基本的考え方を提案する。
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