本研究では,化学的薄片剥離法により形成し可溶化したグラフェン薄片を,有機薄膜素子の構成材料として用いることによって,有機薄膜太陽電池および有機薄膜電界効果トランジスタ(FET)の性能を,現状よりも大きく引き上げることを目指している。平成24年度の研究では次の成果が得られた。 (1)可溶性低分子有機半導体として用いられているTIPSペンタセンのクロロベンゼン溶液に可溶化グラフェンを添加してFET素子を塗布形成したところ,未添加の素子よりも高いオン電流および電界効果移動度が得られた。原子間力顕微鏡及び光学顕微鏡観察から,可溶化グラフェンを添加することによりサイズの大きな結晶性TIPSペンタセンドメインが生成していることが判明しており,境界欠陥の減少が高性能化につながっていると考えられる。 (2)酸化グラフェンおよび三酸化モリブデンはいずれも有機薄膜太陽電池の正孔輸送層として利用可能であるが,これらを混合して正孔輸送層を塗布形成したところ,単独で用いる場合よりも高い光電変換効率が得られた。太陽電池素子特性の解析および膜表面形態の電子顕微鏡観察から,層状構造を持つ両物質の混合により,より均一性および被覆度の高い正孔輸送層形成が可能になり,性能向上につながったことが示されている。 (3)酸化グラフェン塗布膜の還元により形成したグラフェンを薄膜FETのソース・ドレイン電極に利用することで高性能化が可能であることをこれまで報告してきたが,塗布形成ZnO(Li)層をチャネルとするn型素子と,塗布形成TIPSペンタセン層をチャネルとするp型層を組み合わせることで,インバーター回路を形成することにも成功した。 (4)n型結晶Si/酸化グラフェン添加導電性高分子PEDOT:PSSヘテロ接合太陽電池において,素子性能が酸化グラフェンの粒径にほとんど依存しないことが判明した。
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