最終年度の本年、我々はエピタキシャル条件と分子間相互作用が有機-無機ヘテロ界面における電子状態に及ぼす影響について、相互作用が強い場合と弱い場合の双方に着目して研究を行った。実験手法としては、電子状態測定のために角度分解紫外光電子分光を、構造解析のために反射高速電子線回折と低速電子線回折を用いた。特筆すべき結果として、単結晶配向したアントラセン多層膜をケイ素版グラフェンといえるシリセン上に成長することに成功したことが挙げられる。基板と分子結晶の間の格子整合性が良好なためにこの様なエピタキシャル成長が可能になったと考えられる。ペンタセン薄膜の場合は良好な格子整合性が基板との間に存在せず、エピタキシャル成長は起きなかった。また、アントラセンとシリセンの間の相互作用は、アントラセンとグラファイトの間よりも強いことが明らかとなったが、このことはシリセンのバックリングに由来すると考えられる。次に、ジベンゾテトラチアフルバレン(DBTTF)分子は、電子供与性官能基と電子求引性官能基の両方を持つ分子であるが、Cu(110)上に成長したDBTTF分子の配向が被覆率と基板温度に強い依存性を示すことが明らかとなった。この理由として、分子―基板相互作用は強いものの、官能基の種類によって反対の効果が存在することが考えられる。さらに、アルファゼキシチオペン(α-6T)/α-NPDの有機―有機界面において、分子配向がイオン化エネルギーを変化させ、電荷注入障壁を小さくすることが明らかとなった。
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