本研究は、ケミカルドーピングを用いたナノエンジニアリング法(CD-NE法)によりナノ組織が制御された高機能超伝導薄膜形成プロセスを開発するとともに、高分解能その場観察技術および独自の3次元可視化技術により、これまで未解明であったナノ構造結晶化メカニズムについて解明することを目的としている。平成22年度は、計画通り2つの項目について検討した。まず第1に、超伝導薄膜導入に適した人工ピニングセンタ(APC)材料について検討を行った。固相反応法により非超伝導酸化物を添加した超伝導体バルクを作製し、超伝導特性を評価した。その結果見出したBa_3Cu_3In_4O_<12>およびBaTbO_3が超伝導相中において極めて安定であり、磁場中臨界電流密度向しに効果があり、APC材料として有望であることを明らかにした。次に、上記で得られた知見を基にして、CD-NE法を用いて、薄膜中のナノAPC相形成について調べるために、塗布原料としてIn有機金属溶液を超伝導体用有機金属溶液に添加した複合溶液を用いて有機金属塗布法(MOD法)によりInを1mol%ドープしたMOD-GdBa_2Cu_3O_y薄膜を作製した。その結果、Inドープにより、磁場中でJ_c特性が向上することが明らかとなった。この結果は、本研究計画のバルク材料を用いた基礎実験は、新しいAPC材料発見に繋がることを示唆している。また、Zr1mol%ドープ添加MOD-GdBa_2Cu_3O_y薄膜も同様に磁場中でのJ_c値が向上した。このZr添加超伝導薄膜をTEM解析した結果、超伝導相中に数nmサイズのBZOナノ粒子が形成されていることが明らかとなった。このことから、Zr有機金属塩溶液を超伝導薄膜形成溶液にケミカルドーピングするという本研究提案のCD-NE法により、超伝導相中に非超伝導相のナノ組織を形成できることが明らかとなった。
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