FeSr_2YCu_2O_<6+δ>は、Ba_2YCu_3O_<6+δ>を母体にCuO_δ鎖のCuサイトにFeを置換した系であるが、多段階アニールにより初めて超伝導体となる。超伝導転移温度T_cは約60Kであり、約20Kに反強磁性的な磁気転移を持つ、超伝導と磁性とが共存する磁性超伝導体である。なお、多段アニールとは、まず還元アニールによりCuとFeの原子価を制御してCuとFeの秩序配列を促進し、次に酸化アニールによりCuO_2面上にキャリアを供給するもので、FeSr_2YCu_2O_<6+δ>ではCuとFeの相互置換や酸素欠損による欠陥が内在している。したがって、FeSr_2YCu_2O_<6+δ>の物性を理解するためには、どのような構造的な乱れがあるかを把握する必要がある。超伝導化された、すなわち、CuとFeが秩序化し酸素欠損が少ないFeSr_2YCu_2O_<6+δ>における磁気秩序は、従来の超伝導化されていない、すなわち、CuとFeが秩序化されていないFeSr_2YCu_2O_<6+δ>における磁気秩序と同様のものと考えられるが、超伝導化されたFeSr_2YCu_2O_<6+δ>では低温での磁気Bragg反射は観測されない。また、TOF中性子回折による精密な結晶構造解析によると、還元アニール後のFeSr_2YCu_2O_<6+δ>でもFeサイトには20%程度のCuの置換があり、その後の酸化アニールによりFeサイトの周りの酸素欠損は、Cuの周りではなくFeの周りから酸素が充填されていくことが明らかになった。したがって、FeO_6八面体の短距離のネットワークが形成され、短距離の反強磁性的な磁気秩序が発現する。また、光電子分光によると、酸素量の変化にもかかわらずFeの原子価はほぼ3価であり、CuO_2面へのキャリアの供給はFeサイトに置換しているCuの周りの4配位の酸素が担っていると考えられる。
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