研究課題/領域番号 |
22560015
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
茂筑 高士 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 主幹研究員 (20354293)
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キーワード | 酸化物高温超伝導体 / 磁性超伝導体 / 中性子回折 / 秩序配列 / 磁気秩序 |
研究概要 |
FeSr_2YCu_2O_<6+δ>は、超伝導を担うCuO_2面と磁性を担うFeO_δ面がc軸方向に積層された磁性超伝導体であり、量子コンピューターへの応用が期待できるπ接合(強磁性ジョセフソン接合、電流の位相がπだけずれるジョセフソン接合)が自然に形成されている可能性がある。本年度においては、その物性を詳細に理解するために、磁気転移に関して解析を行った。大気中で合成したままのFeSr_2YCu_2O_<6+δ>にはCuとFeとの相互置換が発生し、超伝導が発現しない。したがって、c軸方向にCuとFeとを秩序配列させるためにまず還元アニールを施す必要がある。還元アニール後、CuとFeとがほぼ秩序配列するものの、FeO_δ面上のFeサイトには20%程度のCuの置換があり、FeO_δ面上のCuの周りには酸素欠損が発生し、一方Feの周りは四面体配位で酸素が充填される(CoSr_2YCu_2O_7型の結晶構造)。そのとき磁化の温度依存性は常磁性的な振る舞いを示し、磁気秩序は発現しない。続いてCuO_2面にキャリアを供給し超伝導を発現させるべく、酸化アニールを施すと、まずFeの周りの酸素が四面体配位から八面体配位へと変化し、さらに酸素量が増すとCuの周りの酸素欠損に酸素を補填することになる。これらに対応するように、磁化の温度依存性では、まず約20Kで反強磁性的な磁気秩序が発現し、続いて約60Kで超伝導を示すようになる。低温での中性子回折によると、FeO_δ面上の磁気秩序は磁気Bragg反射が観測できるほどの長距離秩序ではなく、FeO_δ面上のFeサイトに一部置換したCuのために、FeO_6八面体の短距離ネットワークによるもので、20K以下においてもいくつかの磁気転移が観測できる。上部臨界磁場Hc_2は1kOe程度(5Kでの値)と酸化物高温超伝導体としてはきわめて小さく、CuO_2面上の超伝導はFeO_δ面上の磁気秩序から影響を受けている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で取り上げるFeSr_2YCu_2O_<6+δ>は、酸素量6+δ(キャリア濃度)の制御により超伝導と磁性の両方の特性を制御できるという、他の系では見られない特徴を持つが、その物性には不明な点が多かった。しかしながら、本研究の進展により、合成条件を最適化して詳細な結晶構造を解析し、構造の乱れ、超伝導及び磁性とが関連しているこの系独特の描像を理解するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後、将来的な量子コンピューター等への応用を検討する上で、FeSr_2YCu_2O_<6+δ>における磁気相図(温度とキャリア濃度に体する磁気秩序の状態)を明らかにする必要があり、磁化特性、磁気抵抗等の基本的な物性測定を行う。特に、磁性を担うFeO_δ面が作る内部磁場が超伝導を担うCuO2面にどのような影響を及ぼすかは大変興味ある現象であり、超伝導と磁性とが2次元的に競合しているという固体物理学的にも重要な現象で、その理解を促進させる。
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