本年度は、双晶超格子ナノワイヤーおよび双晶界面の電子状態について理論的に研究した。 ナノワイヤーの現実的な応用を考える際に、その結晶構造・欠陥分布の制御は重要であるが、最近InPおよびInAsのナノワイヤーで、結晶構造を制御して、双晶界面を周期的に導入した双晶超格子ナノワイヤーが作成された。このような双晶界面が周期的に入ったことによるナノワイヤーの電子状態への影響を調べるため、Ag双晶超格子ナノワイヤーの電子状態をタイト・バインディング法を用いて計算した。その結果、バルクのAg双晶超格子とは異なる微細な構造をもつエネルギーバンドが得られた。特に、ナノワイヤー境界のジグザクな形状が電子状態に及ぼす効果を調べるために、シュレディンガー方程式を斜交座標で表し、サブバンド間の有効的な行列要素を求めた。その結果、ナノワイヤーの半径と超格子の周期が同程度のときに、境界のジグザク効果が大きいことがわかった。 また、CuPt型の結晶構造をとるGaInP_2などの3元化合物半導体は、一軸性の構造をとり、電子の有効質量、誘電率等も一軸性の異方性をもつ。この双晶界面に入射する弾道的な電子を考えると、界面での反射が起こらず全透過すること、および、特定の入射角では負の屈折が起こることが理論的に示されていた。しかし、この理論は有効質量近似による議論であり、原子レベルから研究は行われていなかった。本研究では、密度汎関数法を用いた第一原理計算によりGaInP_2双晶界面の電子状態の計算を行った。その結果、この系のエネルギーバンドは、有効質量を用いてあらわした単純なものとは異なり、異方性がエネルギー依存性をもつことがわかった。すなわち、伝導体の底では、ほとんど異方性がみられないが、そこからエネルギーが上昇するにつれて異方性が表れ、負の屈折が生ずる可能性が示された。
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