平成25年度は、2次元トポロジカル絶縁体であることが理論的に予想されている単原子層のビスマスに関する研究を行った。これまでに、単原子層ビスマスの電子状態の密度汎関数法による計算からは、バンドギャップ中にトポロジカルなエッジ状態が存在することが示されている。しかし、このエッジ状態の分散は単純ではなく、フェルミエネルギーに状態が複数存在する。このため、単純な分散をもつトポロジカルなエッジ状態では起こらない後方散乱が生じてしまう。このことは、単原子層ビスマスをスピントロニクスに応用する場合に障害となる。本研究では、後方散乱が生じない単純な分散をもつエッジ状態を実現するために、単原子層ビスマスの端に水素を吸着させた構造を考案した。単原子層ビスマスのエッジとしてジグザク端を考え、密度汎関数法を用いた全エネルギーの計算から水素原子の最適配置を決定した。その結果得られた構造でこの系の電子状態の計算を行ったところ、バンドギャップ中にディラックコーン状の単純な分散をもつエッジ状態が生ずることがわかった。この系のエッジに欠陥を導入した構造で、電子の透過確率の計算を行ったところ、後方散乱が生じず、完全透過が起こることが確かめられた。この結果から、水素がエッジに吸着した単原子層ビスマスには、後方散乱の生じない理想的な分散をもつトポロジカルエッジ状態が存在し、この系がスピントロニクスへの応用に適していることが理論的に示された。今後は、この理論的結果を確認する実験が期待される。
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