研究課題/領域番号 |
22560020
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
伊藤 治彦 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (70201928)
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キーワード | アモルファス炭素 / アモルファス窒化炭素 / アモルファス炭化ケイ素 / プラズマCVD / NEXAFS / レーザー分光 / 発光分光 / フリーラジカル |
研究概要 |
1.水素化されたアモルファス窒化炭素(a-CN_x:H)薄膜の窒素源の特定 a-CN_x:H膜が生成する過程で、CNラジカルの膜表面への付着過程がどの程度関与するかを調査した。そのためにs=N_<a-CN/nCN(x)>VtdAで定義されるパラメータsを用いた。この式でN_<a-CN>はSi基板上に膜として堆積したN原子数、n_<CN(X)>は気相中のCNラジカルの数密度、Vま流速、t_dは成膜時間、Aは基板の面積である。CNラジカルのレーザー誘起蛍光(LIF)分光法によりn_<CN(X)>を、時間分解発光計測でVを求め、膜重量(w)と膜の組成分析をもとにN_<a-CN>を求めた。Arのマイクロ波放電フローによるBrCNの解離励起反応ではCNラジカルが選択的に生成するので、このときのsはCNラジカルの付着確率を表す。本研究ではAr/CH_3CN系およびN_2/C_6H_6系についてsを求めてAr/BrCN系のsと比較し、これらの系でCNラジカルが前駆体となるか否かを議論した。その結果、Ar/CH_3CN系のs(s=0.21@P_<Ar>=0.2Torr)は加水系における付着確率(s=0.22@P_<Ar>=0.2Torr)と近い値でありAr圧力に対して同じ負の相関を持つことがわかった。このことから、CH_3CNの分解により作成されるa-CN_x:H膜の窒素源はCN(X^2Σ^+)である可能性が高いことが示唆された。一方、N_2/C_6H_6系ではs=0.53@P_<N2>=0.2Torrとなり、CNの付着確率よりも系統的に大きくなった。その結果、N_2/C_6H_6系では膜として取り込まれたN原子のうちCNラジカルに由来するものは高々35-50%程度であると見積もられた。以上の解析方法は膜の窒素源を特定る有力な手法となり得る。 2.希ガスのECRプラズマにおけるCH_3CNの分解過程の検討 希ガス(Ar、He)のECRプラズマを用いたCH_3CNの解離励起反応を検討するために、プラズマ中に極微量のH_2Oを導入しCN(B-X)遷移の発光スペクトルの強度変化を調べた。さらに、ラングミュアプローブ測定をもとにCN(B-X)の発光強度の変化を予想し、実測のスペクトルと比較することでCH_3CNの解離励起反応を検討した。また、これらの測定結果と定常状態法によるCN(B)の数密度の評価からCN(B)状態の生成過程を明らかにした。解析の結果、ECRプラズマにおけるCN(B)状態の主な生成過程は、Arプラズマの場合は電子衝撃、Heプラズマの場合は電子衝撃及びイオン-電子再結合反応の両方の可能性があると結論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の究極の目的はアモルファス炭素系薄膜材料の形成メカニズム、特に硬質化の機構を明らかにすることである。9項で述べた結果はアモルファス窒化炭素薄膜の形成メカニズムに関するもので、原料の分解メカニズムおよび膜の窒素源を特定する有力な手法を提供している。また欄が足りないため記載できなかったが、ArのECRプラズマにおけるC_2H_2の分解メカニズムと膜硬度との関連を議論する研究を行い、論文に発表した。以上のことから、おおむね順調に目的達成ができていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
9項述べた結果で、N_2/C_6H_6系で形成されたa-CN_x:H膜は[N]/([N]+[C])比が0.5程度であった。過去の研究例ではN_2と有機化合物蒸気の混合気体放電で得られる比は0.1程度に抑えられていたこと、ならびに上記の比が0.5程度になるのは我々が提案したAr/BrCN系に限られていたため、この結果は意外であった。反応のさせ方から考えると、C_6H_6の他、C_2R_2などでも同様の結果が期待される。これらの反応系ではBrのような不純物を含まないCN膜の形成が可能であるため、工業上の意義がある。今後、本方法での硬質膜の形成ならびに硬質化過程の解明へと進めることを検討している。
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