本研究の目的はカルボキシル基とTiO2表面の反応を原子スケールで解明することである。研究の初期段階はTiO2(101)単結晶表面の走査トンネル顕微鏡(STM)観察から開始した。しかしながら、計測中に探針先端がTiO2表面と接触して破損する現象が続き、結局、原子分解能のSTM像を得ることが出来なかった。カーボンナノチューブ(CNT)を先端に取り付けた探針を使用してみたが、これでも原子分解能の像を観察することが出来なかった。 このような中、共同研究者との研究を通じて、TiO2表面にピロリジンジチオカーバメート(PDTC)やジエチルジチオカーバメート(DEDTC)を付加してDSSCを作製すると変換効率が改善されるという研究結果が得られた。PDTCとDEDTCのTiO2と相互作用する末端基はカーバメート基(-CSS-)であり、カルボキシル基(-COO-)の酸素を同族の硫黄で置き換えた構造をしている。酸素や炭素と異なり硫黄は太陽電池作製環境内に存在しておらず、微量であってもXPSで正確に化学状態の知見を得ることが出来る。そこで、カルボキシル基の代わりにカーバメート基の結合様式を解明するための研究を行うこととした。TiO2ナノ粒子の焼結薄膜(ポーラス構造薄膜)に供給し、XPSを使用してPDTCに含まれる硫黄の吸着構造を調べた。その結果、PDTC分子内に含まれる2つの硫黄原子は吸着前には明らかに2種類の異なる化学環境にあったものが、TiO2への吸着後に同一の環境へ変化することが分かった。これより、PDTCは硫黄のbidentate型吸着構造をしていると考えられる。
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