固体物質の構造を三次元から二次元、一次元へと低下させると新奇な物理現象が発現することがある。1960年に提唱されたラシュバ効果と呼ばれる二次元物質において電子スピンが偏極し、電子バンドが分裂する現象もその1つである。近年、軽元素を基板とした重金属吸着系(ビスマス、鉛等)において、大きなスピン分裂(巨大ラシュバ効果)が観測されることが明らかになってきた。本研究の目的は、結晶性基板とは整合しない二次元物質系を創製することであり、さらに、スピン分裂の大きさを整合・非整合の構造において比較評価することである。 平成22年度は、ビスマスの二次元物質系の創製を試みた。まず、Rh(111)清浄表面に室温にてビスマスを0.3から1原子層程度蒸着を行った後、AES法により蒸着した金属原子の被覆率の確認、LEED法により回折スポットの観察・解析、STM法によりビスマスの空間分布の観察や原子配列の解明を行った。その結果、ビスマスが低被覆率のときは、2回対称性の構造の単原子層薄膜を形成するが、被覆率の増加とともに、6回対称性の六方最密構造の単原子層薄膜へと構造相転移することが判明した。この薄膜は、基板と整合した(4x4)構造であった。ビスマスはバルクにおいて六方最密構造を形成しないが、ロジウムとビスマスの強い引力相互作用により、表面のビスマス密度が増加し、六方最密構造を形成することを本研究により初めて明らかにした。結果的に、ビスマスは鉛と異なり、Rh(111)表面上において二次元物質系を形成しないことが判明した。現在は、ビスマス-スズ系もしくはビスマス-鉛系の二次元合金による二次元物質系の創製について調べている。
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