固体物質の構造を三次元から二次元、一次元へと低下させると新奇な物理現象が発現することがある。例えば、1960年に提唱されたラシュバ効果と呼ばれる二次元物質において電子スピンが偏極し、電子バンドが分裂する現象もその1つである。近年、軽元素を基板とした重金属吸着系(ビスマス、鉛等)において、大きなスピン分裂(巨大ラシュバ効果)が観測されることが明らかになってきた。本研究の目的は、結晶性基板とは整合しない二次元物質系を創製することであり、さらに、スピン分裂の大きさを整合・非整合の構造において比較検討することである。 本研究では、ロジウム単結晶表面上に重金属である鉛・ビスマス系およびスズ・ビスマス系の二次元物質の創製を試みた。実験は、清浄化されたロジウム表面上に室温にて鉛(スズ)およびビスマスを 0.3-1 原子層程度蒸着後、AES 法により蒸着金属原子の被覆率を確認し、LEED 法により鉛(スズ)・ビスマス系薄膜の原子配列の周期性の被覆率依存性を明らかにした。次に、STM 法により鉛(スズ)・ビスマスの空間分布や成長様式を観察した。次に、鉛(スズ)・ビスマスによる二次元物質系の原子配列構造を STM による高分解能観察により明らかにした。これら複合解析により、鉛・ビスマス系は二次元二元固溶体合金を形成し、スズ・ビスマス系は組成より二次元系規則合金や二次元系固溶体合金を形成することを明らかにした。 上述の実験とともに、鉛(スズ)・ビスマス二次元物質の電子状態について、計算機シミュレーションを行なった。第一原理計算ソフト、VASP(ウイーン第一原理計算パッケージ)を用いて、上述の実験により明らかにされた鉛(スズ)・ビスマスの二次元構造について、バンド構造計算を行った。
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