研究計画の最終年度にあたる本年度は、はじめに2台の半導体レーザーからの出力光をファイバーカプラを用いて混合し、ビート信号を帰還して波長可変範囲、位相同期時のビート信号の位相ゆらぎ等の評価を試みた。次に、昨年度に整備した近赤外光用の光伝導素子を用いてテラヘルツ波の発生実験を行った。ファイバーカプラを用いて混合したレーザー光を対物レンズを用いて光伝導素子の間隙部分に集光し、発生したテラヘルツ波をシリコンレンズでコリメートして検出器に導入した。光伝導素子の定常電流特性の計測結果を分析し、発生するテラヘルツ波の電力を最大で10nW程度と予想した。予定していたボロメータが使用できなかったため、検出器にはWバンド対応のハーモニックミキサを使用した。100GHzで電磁波の発生実験を実施したところ、発生した電磁波の電力は2.5nW以下であることが確認された。予想と異なった理由は、使用した光伝導素子の共振周波数が約350GHzであるため素子の共振条件が満たされないことが主な原因であると判断した。この実験結果を基に光伝導素子のミキシング特性を予想し、中間周波(IF)出力として得られるヘテロダイン信号の大きさを見積もったところ、350GHzで実験を実施した場合、最大で-120dBm程度の信号強度が得られる見通しを得た。この信号強度はIF帯域を1kHzに制限すれば十分な信号対雑音比で観測可能な大きさである。この信号強度は光伝導素子のインピーダンス整合条件の改善によって大幅な増強が可能であることも見出し、キャリア抽出動作の実証に目途を付けることができた。
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