本研究課題では,大きな熱起電力と低い熱伝導率が要求される次世代の熱電変換材料に供するため,熱電半導体微粒子と磁性微粒子のハイブリッド材料を開発することを目的とする.平成24年度は最終年度として以下の内容を遂行した. 1. 前年度に合成に成功した熱電半導体微粒子と磁性微粒子のハイブリッド材料(Bi-Sb合金・バリウムフェライト系)の伝導機構を詳細に解析した.熱電能αおよび電気抵抗率ρの振る舞いをパーコレーションモデルで定量的に説明できることを明らかにし,この結果を刊行論文に報告した. 2. 微粒子系ハイブリッド材料の熱伝導率をより精密に測定するため,3ω法を用いた熱伝導率測定装置を開発した.この装置を用いることにより,上記の実験で理解が難しかった微粒子系での熱伝導メカニズムの解明につながることが期待できる. 3. 以上の結果を踏まえて,Bi-Sbハイブリッド熱電材料の原料となる強磁性体ナノ粒子として,より高い保持力を有するFe-Nd-Bを用いた.母体Bi0.88Sb0.12インゴットを粉砕した原材料末にFe-Nd-B微粒子を添加し,現有のマッフル炉で加熱して試料を作製した.Bi-Sbに対するFe-Nd-B微粒子のモル比は,0から9%とした.このハイブリッド試料を磁化させ,その前後での熱電性能を比較した.この実験より,Bi-Sb合金・Fe-Nd-B系ハイブリッド材料では,微粒子が磁化することにより熱電能αが最大5%増加することを実験的に見いだした.この増加率は,|α|が最大となる125 Kで最も高くなる.この効果は外部磁場を取り去っても保持される.この効果によりZT =α2T/(ρκ)で定義される熱電性能指数は4%の増大することが明らかとなった.この増強効果の磁気異方性が小さいことから,ハイブリッド中の内部磁場は強磁性微粒子のランダム分布を反映していることがわかった.
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