研究概要 |
有機薄膜太陽電池の発電原理は無機半導体とは異なり、励起子の電荷分離過程がエネルギー変換効率に大きく影響を及ぼす。このことから有機半導体薄膜の構造および界面制御は重要である。本研究では、CVD法で生成するオクタシアノ金属フタロシアニン(M-OcPcM:金属)のロッド状の結晶成長に着目した。励起子拡散に有利な新規バルクヘテロ構造を目指し、気-固相反応条件の検討によりナノロッド構造の制御を目指す。 昨年度は、減圧封管中で1,2,4,5-テトラシアノベンゼン(TCNB)と各種基板との反応を試み、TCNBとKCl単結晶を封管内で加熱することにより緑色のオクタシアノフタロシアニン(K_2-OcPc)薄膜を得た。KCl上の薄膜を水面剥離し、p型半導体としてPoly[2-methoxy-5(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylenevinylene](MEH-PPV)を用い、Au/PEDOT:PSS/MEH-PPV/OcPc/AlOx/ITO積層素子を作製した。擬似太陽光下での光電変換特性の評価により発電することが確認されたが変換効率はかなり低いものだった。今年度はさらに素子構造の検討を行い、Au/MoO3/MEH-PPV/OcPc/TiO_2/ITO積層素子を作製した。KCl上の薄膜を水面剥離前にMEH-PPV溶液に浸漬することにより、ロッド間にMEH-PPVが浸透しpn界面の増加により変換効率は1000倍向上したが、約1.8x10^<-3>と低い変換効率にとどまっている。 水面剥離による水分の影響をうけない素子作製のために、金属供給層(シード層)を予め成膜してTCNBと反応させることにより、M-OcPc薄膜を基板上に直接作製することを試みた。シード層には電極材料としてよく用いられるLiFを選択した。TCNBとLiF単結晶を封管内で加熱すると、660nm付近に最大吸収波長を持つ緑色薄膜が得られたが、グレイン状となりロッド状の成長は見られなかった。しかしITO上に蒸着したLiF(1nm)とTCNBを300℃、24時間、加熱反応し作製したOcPc薄莫ではITO上に直径約50nmのロッドが鉛直方向に揃って成長した。シード層の結晶方位が揃っていなくても、異方的に結晶成長し、垂直成長OcPcナノロッド薄膜が得られることが明らかとなった。
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