(概要)マイクロマシンの運動で問題となるのが部品同士の凝着である。凝着を防ぐ有効な手段は、物体間に斥力を発生させ、空中に浮かんだ状態を実現することである。我々は古典物理では説明できない力であるカシミール力を用いてその問題を解決しようとしている。本研究により反磁性を有するメタマテリアルを用いれば、通常は引力であるカシミール力を反発力に変えることができることを理論的に示した。また逆に、カシミール力を測定することにより超伝導の静的透磁率を間接的に測定できることを提案した。 (研究方法)様々なメタマテリアルが提案されているが、本研究ではウッドとペンドリーが提案している反磁性を有するメタマテリアルに注目した。自然界に存在する物質の静的透磁率はほぼ1である。したがって、静的透磁率とカシミール力の関係が注目されていなかった。そこで、反磁性体と常磁性体に作用する力を数値計算により求めて、カシミール斥力が発生するかを調べた。 (研究成果)ウッドらが理論的に解析したメタマテリアルは導電性の高い金属立方体を規則的に配置したもので、非常に小さな比透磁率を持っと予想されている。高周波数で1以上の比透磁率をもつメタマテリアルと比較して構造が単純である。反磁性体と超常磁性体に作用するカシミール力をリフシッツ理論に基づき計算した。その結果、物体の間隔が大きい領域で斥力になることを明らかにした。 カシミール斥力を発生させるため、様々な磁性体が調べられてきたが、反磁性体について言及したのは本研究が最初である。残念ながら、発生する力が小さいために量子浮上に用いることは、現段階では困難である。しかし、他の方法に比べて優れている点は、静的透磁率がカシミール斥力に最も大きく貢献している点である。考察した系では、高周波数成分の寄与は引力になっており、その部分を斥力にすることができれば、カシミール斥力は増強されると考える。
|