研究概要 |
摩擦はエネルギーロスの大きな要因であり,その低減には物体が接触しないように浮揚させることが効果的である.本研究ではカシミール力と呼ばれる力を利用してマイクロマシンのような微小物体を浮揚させる技術について研究している.カシミール力は真空の電磁場が揺らぐことで生じる量子的な力であり,その発生に電源や燃料を必要としない.通常,空気中で作用するカシミール力は引力であり,物体を安定に浮揚させる力としては用いることができない.そこでカシミール力を斥力に反転させる方法を探究している. 近年,国内外で研究が進み量子浮揚に必要な条件が分かってきた.これまでは金属間のカシミール力が中心に検討されてきたが,本研究では磁性体を中心に考察している.特に,イットリウム鉄ガーネット(YIG)は磁性体でありながら透明な物質であり,量子浮揚実験に用いる実験材料として望ましい性質を有することを報告している.まず,YIGと高温超伝導間のカシミール力について計算を行った.超伝導体はマイスナー効果により完全反磁性体になりえる.これによりYIGに作用するカシミール力が斥力になることを示した.ここで強調すべきことはYIGは磁気モーメントを有していないので,この斥力は超伝導浮揚に用いられる力とは別物である.次に,金とYIGの問に作用するカシミール力を計算し,金が特別な条件を満たせば斥力になり,かつその力はYIGを薄くすることで増大することを示した.通常,カシミール力は物体を薄くすると小さくなるため予想に反する結果となった.しかし,物体を薄くすると単位面積あたりの重力が小さくなるため,量子浮揚には好都合な結果が得られた.次年度はどのようにすればカシミール斥力が測定できるか考えていく.
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今後の研究の推進方策 |
カシミール斥力の発生手法を検証する実験方法を具体的に提案し,可能であれば予備計測を行っていく. 具体的にはガドリウムの相転移を利用した実験で,金の誘電関数がプラズマモデルとドルーデモデルのどちらで良く近似できるかを調べる.また,超伝導を用いたカシミール斥力の測定実験についても考察してき,量子浮揚で必要なカシミール斥力の発生方法で最も可能性あるものを最終的に報告する.
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