研究課題
系の一部と全体が自己相似な関係にあるフラクタル系は、自然界や社会の様々な構造において見ることができる。フラクタル構造を有する系は極めて高い機能性を示すことが知られており、フラクタル・アンテナやフラクタル光導波路、フラクタル日よけなど、フラクタル性を恣意的に課した人工フラクタル構造が過去に提案されている。しかしながら、フラクタル構造は非常に複雑であるため、限定された物理スケール以外ではその人工的作成が困難である。実際、これまで開発された機能性フラクタル構造体の殆どは、人工的な操作が容易なスケールのものばかりである。これは、様々なスケールや階層におけるフラクタル系に共通した統計的性質の統一的理解と、その普遍的性質を再現する自己組織的フラクタル構造形成メカニズムの解明が不十分なことによる。本研究では、異なる階層に属するフラクタル系に共通して見られる普遍的性質とその起源を解明することにより、多様なフラクタル系の構造形成メカニズムを統一的に理解するとともに、得られた知見を基礎として機能性フラクタル構造体を人工的に作成するための設計理論を確立する。特に今年度は、ユークリッド距離が定義されない複雑ネットワークにおいて、トポロジカルな意味でのフラクタル性とスモールワールド性(トポロジカルな平均ノード間距離がノード数の対数に比例するという性質)がどのような関係にあるかを明らかにした。具体的には、数学的には背反するこれら2つの性質が、測定の仕方によって単一ネットワーク上で同時に観測されるという実証的事実とどのように矛盾なく説明されるかを議論した。様々な複雑ネットワークを調べた結果、ネットワークはそのパーコレーション転移点近傍でフラクタル構造からスモールワールド構造へ構造的クロスオーバーを示すことを明らかにした。
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