本研究の目的は、異なる階層の複雑系において発現するフラクタル性の統一的理解と機能的フラクタル構造体の理論的デザインを行うことであり、マクロな古典系からナノスケール量子系、さらにはユークリッド距離が定義されない複雑ネットワークに至るまで、階層を超えたフラクタル系の統計的性質を系統的に研究する。本年度は、これらの中で特に複雑量子系に見られる量子秩序状態の解明と、複雑ネットワークの機能とトポロジーとの関係解明に関する研究を行った。不規則量子系における金属-絶縁体転移(Anderson転移)の転移点直上では、波動関数がマルチフラクタル性を示すことが知られている。しかしながら、この転移の秩序変数が何であるかは明らかにされておらず、現在でも議論が続いている。本研究では、局所状態密度の典型値が秩序変数の有力な候補であることを、秩序変数が満たすべきスケーリング関係式の検証、および有限系の秩序変数揺らぎの分布関数が他の秩序変数と同じく一般化Gumbel分布に従うことを示すことにより明らかにした。また、複雑ネットワークのノード故障に対する頑強性に関しても理論的研究を行った。どのような構造を有するネットワークが故障や攻撃に対して頑強であるかについては、これまでの幾つかの研究によって明らかにされているが、頑強なネットワーク・トポロジーが特異な構造を有するため、これを現実的にデザインすることは困難であった。本研究では、実際に制御しやすいノードの「最低次数」に着目し、最低次数を僅かに大きくするだけで非常に頑強なネットワークを構築することができることを理論的に明らかにした。これらの研究成果は、学会や研究会および欧米誌に発表された。
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