研究概要 |
本研究の目的は次の2点であった. 1金融資産の日中の秒単位での取引発生の時間間隔を,この間の申請者の検証から妥当性が確認され始めているパレート分布を軸にモデル化するとともに,1回の取引数量の分布と,取引時間間隔の相関を合わせてモデル化する. 2申請者は,株価日中価格変動のモデル化を,既存研究に倣って取引発生がポアソン過程に従うことを仮定してモデルを提案し,待ち行列理論に基づいた解析を行ってきた.更にこのモデルの現実への適用可能性を検証しある程度までは現実を説明することも示した。パレート分布はフラクタル的性格を持つ奇妙な分布である.これによりモデルの性格が実用性を増すと共に,理論的に既存研究と異なる新たなステージに移ることを目指す. 昨年度の研究で,板の上下変動での強い負の相関について,現実の変動はビッド・アスク・バウンスの問題を考慮してもなお,著者の変動モデルで説明される結果より若干弱いことが判明している.今年度の実証研究で,取引高をモデルに組み込むと,多少この問題は緩和されうることが分かった.更に改良の余地はあるが,この点での当初の目的は達成された. ただ,モデルを複雑化すると,定性的な解析がより困難となることも判明している.更に,データ観測期間を変えると,分布そのものが大きく変動して,株式市場のダイナミックスについての一般論を得にくくなることも判明している.「嵐の海」と「凪の海」を同じモデル扱おうとすることそのものに無理があるので,この点では割り切りが必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,「板」の変動の解析を行う.この変動の振る舞いを理論的,およびシミュレーションで解析し,更に,モデルでのミクロなモデルが,それから予測されるマクロな観測量と整合的であるか否かを検証する. 更に,このモデルを前提として,現実に適切な取引方法の解析を行う.特に,(1)その日の平均株価で取引するための戦略とその分散(2)取引のプレイヤーとして大きな売り手と大きな買い手がいる場合に,双方がどのような戦略を取るのが均衡解を与えるかの解析を行う.
|