研究概要 |
線形方程式ソルバーであるKrylov空間法は,過去50年以上,様々な研究が行なわれノウハウが蓄積されてきた.一方,2007年,Krylov空間法とは異なる原理から導出されるInduced Dimension Reduction(帰納的次元縮小,IDRと略す)(s)法と呼ばれる新たな線形方程式ソルバーが提案された.さらに,一部の積型解法とIDR(s)法の関係が明らかにされた.そこで,本研究の目標は,IDR(s)法と積型解法と関連性に着目し,従来の積型解法で利用されてきた2次の安定化多項式を組み込んだ新たなIDR(s)法,擬似残差を加味したIDR(s)法など,従来よりも収束性,ロバスト性に優れた解法の開発することである.すなわち,従来のKrylov空間法が発展してきた中で活用されたアイディアをIDR(s)法に取り込むこと,またIDR(s)法に用いられたアイディアを従来の解法に取り入れることにより,新旧の解法の長所を活かした従来よりも収束性に優れた解法の開発に取り組むことである. 成果の1つ目は,IDR(s)法が導出されるときに使用される漸化式を用いて積型解法を再導出し,変形版を提案した。その結果,従来の方法が停滞するような場合でも変形版は収束した.さらに,積型解法の安定化多項式係数の新たな計算方法を提案した,その方法を組み込むと丸め誤差の影響を受け難くすることができ,安定な収束性が得られた。 成果の2つ目は,IDR(s)法にL次の安定化多項式を組み込んだIDRstab法の偽収束を改善し,かつ疎行列に対しては従来よりも少ない計算量のアルゴリズムを提案した. 成果の3つ目は,同じ係数行列に対して複数本の右辺項をもつ線形方程式に対するIDR(s)法を提案した.従来の方法を用いた逐次的な計算や名古屋大学のグループが提案した手法よりも低コストで有効であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書では,研究期間内に明らかにすることとして(1)アルゴリズム開発,(2)先に行われた研究の改良,(3)収束特性の解析,(4)実用問題への適用をあげた.(1),(2),はおおよそおわり,(3)の途中にある.最終年度である24年度は,(3),(4)を遂行する予定で,おおよそ当初の計画通りである.
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者,連携研究者,研究協力者と密に情報交換,協力して研究を遂行する予定である.研究協力者であるSleijpen教授は,これまでにアルゴリズム開発および収束特性の解析を行なってきた世界的な研究者である.収束特性の分析を進める上で,有用な助言をもらう予定である.また,研究分担者の藤野教授,および連携研究者の中島教授は実用問題を扱っている.実用問題を提供してもらい,実際の応用問題に適用して,開発したアルゴリズムの有効性を示す.研究分担者には提供のみならず,実験を実施してもらい,実験結果について情報交換する予定である.
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