研究概要 |
非対称行列を係数にもつ線形方程式に対する代表的なKrylov空間法の一つは,1976年に開発された双共役勾配(BiCG)法である.1989年から1990年代前半まで,BiCG法の収束性向上を目指し,積型解法と呼ばれるBiCG法に安定化多項式を組み入れる研究やBiCG法に疑似残差の概念を組み込む研究が行なわれた.前者の研究として,これまでに1, 2, L 次の多項式をBiCG法に組み入れた安定化双共役勾配(BiCGSTAB)法,一般化積型双共役勾配(GPBiCG)法,BiCGstab(L)法などが開発された.また,後者の研究として疑似最小残差(QMR)法などが開発されている.これらの解法は,現在 多くの応用分野で用いられ,その有効性が実証されている.そして 2007 年,帰納的次元縮小(Induced Dimension Reduction,IDR)(s) 法と呼ばれる新たな解法が提案され,従来のKrylov 空間法より収束性が優れていることが報告された. そこで,これまでの研究の流れ,歴史に沿って,IDR(s)法に安定化多項式を取り入れる研究や疑似残差の概念を組み込む研究に取り組んだ.すなわち,IDR(s)法の長所と従来から利用されてきた積型解法(GPBiCG法)の長所を結びつけ(IDR(s)法に2次の安定化多項式を取り入れた),高速,かつロバストなアルゴリズムを開発した.さらに,IDRstab法(IDR(s)法にL次の多項式を組み込んだ解法)に疑似残差の概念を(QMRスムージングを利用)を組み込んだアルゴリズムを提案した.また,係数行列が同一で,異なる複数の右辺項をもつ線形方程式に対して有効なブッロクIDR(s)法を提案した.これら開発した解法は大規模な実用問題に対して従来よりも求解効率,ロバスト性が優れていることが期待される.
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