本研究は、(1)混粒組織における疲労軟化挙動と疲労強度、(2)不均一変形モード解析によるひずみ勾配形成、(3)中性子散乱回折を用いた疲労軟化領域と弾性場形成領域の応力状態、について解析し、ひずみ不整合と結晶組織を反映したき裂発生モデルの提案が目的である。 平成24年度は、ひずみ不整合に基づいたき裂発生モデルと、高強度合金の極低応力振幅における疲労き裂発生の理解について検討を行った。高Si鋼の疲労破断試験片の組織解析においては、転位下部組織観察に加えて変形組織内のEBSDパターンから弾性場の検出を試み、粒界三重点近傍のすべり変形が導入されていない結晶粒側の界面近傍に弾性場の存在を抽出してひずみ勾配形成の実験的裏付けを得た。また、Ti合金(HCP)において(0001)面を応力軸に平行に配向した場合でも、(0001)面の割れをきっかけに集合組織を有する柱面へと微小き裂の成長が生じたが、微視き裂の成長は主すべり系のせん断変形が担うこと、そして臨界サイズに達した内部き裂が主き裂に遷移してき裂伝播に至るモデルを示した。さらに、加工熱処理により混粒組織となる場合、転位源の存在は多様な可動すべりを導入して最大のひずみ勾配を小さくして微視き裂形成に要する外力を高め、疲労強度向上の主要因を与えると考えられるが、変形組織は必ずしも一様な転位列を形成するのではなく、粒界への堆積転位による応力集中による微視割れを考える転位モデルの妥当性は得られていない。 以上より、応力集中場の存在と局所変形の関係、変形組織形成において駆動する変形モードと局所変形において駆動するモードの違い、局所変形とき裂形成、の各段階からひずみ不整合部を起因する微視き裂形成モデルの提案を試み、微視割れを回避するための組織制御では、主すべり面の配向性も考慮を要することを示した。
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