身体運動の軸機関および支持機関である脊椎の疾患に対する診断・治療において,脊椎の剛性を定量的に把握することは,適切な治療方針・手術手技を決定する上で極めて重要である.そこで本研究では,脊椎不安定性を力学的観点より定量的に明らかにすることを目的とし,研究代表者らが開発した脊椎強度測定用6軸材料試験機を活用することにより,複雑な脊椎変形挙動を精密かつ系統的な実験により調査する.特に,本科学研究費申請期間においては,脊椎疾患治療のための体内固定具を用いた各種の手術手技が損傷により生じた不安定性の解消にどの程度寄与しているのか,および損傷椎間への体内固定具の装着が隣接椎間にどのような影響を及ぼしているのかについて重点的に検討する. 上述の目的を達成するため,本年度は,昨年度に引き続き損傷椎間への固定具装着が隣接椎間に及ぼす影響について検討するとともに,強固な脊椎固定が必要な場合にPedicle screw and rod system(PS)に併用して用いられるCrosslink system(Crosslink)の固定性について実験的に調査した.具体的には,イノシシ屍体腰椎を用いて作製したPSモデルおよびCrosslinkモデルに対し,前後屈,左右側屈およびそれらの中間の全8方向の曲げ試験および回旋試験を実施し,強固な固定を獲得するために用いるCrosslinkの併用効果について検討した.その結果,曲げ試験においては,いずれの曲げ方向に関してもCrosslinkモデルの椎間可動域はPSモデルと同程度であるのに対し,回旋試験においては,Crosslinkモデルの椎間可動域はPSモデルに比べ有意に減少することがわかった.このことから,Crosslinkは主に回旋運動時の脊椎固定性を高める効果を有すると考えられた.
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